キャプナ弁護団ここにあり!

〜虐待防止のための日本全国初めての試みから定着へ〜

 

1) キャプナ弁護団とは?

1995 年名古屋弁護士会子どもの権利特別委員会の委員が呼びかけて、市民のボランティア団体「子どもの虐待防止ネットワークあいち」( Child Abuse Prevention Network Aichi 通称「 CAPNA 」)が創立された。 2000 年4月にはCAPNAはNPO法人になった。
  キャプナ弁護団は、 1997 年1月、子どもの虐待防止のために活動する弁護士有志で結成され、CAPNAと協力・連携し、また、独自の活動を行っている。キャプナ弁護団は、当時子どもの虐待防止のために奔走する2名の弁護士を殺すな、との合い言葉の下、非常に重い事件が多い虐待ケースの負担をできるだけ分散し、長期的に虐待防止のための弁護活動が行われるようにするために結成された。弁護団結成当時 26 名であったが、 2004 年末現在、岡崎や豊橋の支部弁護士だけでなく、中部3県及び北陸3県のみならず静岡の弁護士も含め、総勢 90 名近くの弁護士が参加しており、毎年、若手弁護士の新たな加入で拡大の一途をたどっている。
  「弁護団」との名が付いているが、弁護団全体で全てのケースを担当するというではなく、後述するように弁護団事務局にケースが入ると各所属弁護士に参加を募り、数名でその個別ケースを担当する弁護団(チーム)を臨機応変に組織するのである。いわば、子どもの虐待防止活動に携わる弁護士同士のネットワーク網である。従って、事務局として、事務局長、事務局次長を置いているが、弁護団長なるものは存在しない。
  もっとも、キャプナ弁護団は、 2003 年 4 月からは愛知県と、 2004 年 4 月からは名古屋市と、それぞれ児童虐待防止に関し委託契約を結び、各児童相談所担当の団員を配置し、児童相談所からの相談を受けたり、個別事件への対応を行うようになっており、「弁護団」としての活動の幅は広がっている。

 

2) キャプナ弁護団と弁護士会との関係について

キャプナ弁護団は、弁護士有志の集団であり、名古屋弁護士会( 2005 年 4 月からは、「愛知県弁護士会」に改称)の委員会(例えば子どもの権利特別委員会)の一部門ではない。もっとも、キャプナ弁護団員のほとんどは弁護士会の子どもの権利特別委員会に所属している。弁護士会の活動とキャプナ弁護団の活動とは明らかに区別されている。キャプナ弁護団の活動は、虐待事件問題に特化されており、また、その問題に柔軟かつ迅速に対応できるシステムになっている。これに対し、子どもの権利特別委員会の活動は、広く子どもの権利全般に関わっており、子どもの虐待防止のための調査・研究を行い、各行政機関や関係機関に対する調査 ・提言なども含め弁護士会の活動としてグローバルな視点からの活動を行っている。このように、それぞれのよさを活かして、子どものための活動が行われている。

 

3) キャプナ弁護団の活動内容

 

キャプナ弁護団は具体的にどのような活動をしているのか。活動は大きく分けて3つに分類できる。 @ 児童相談所の相談を受け、あるいは、児童相談所長の代理人として動く場合、 A 被虐待児の代理人として動く場合、 B 被虐待児の親など(虐待親も含む)の代理人として動く場合の3種類である。しかし、どの場合も、虐待されている子どもの立場に立つこと、少しでも子どもの虐待の防止に資するために活動している点では共通している。

  まず、 @ 児童相談所の相談を受け、あるいは、児童相談所長の代理人として動く場合がある。児童相談所は、子どもの虐待防止の中心的役割を果たす公的機関である。児童相談所に虐待ケースの情報が入ると、調査・検討し、虐待の事実が認められる場合、在宅でフォローするのか親子分離を図るのかを決定する。親子分離等を行わなければならない場合には、児童相談所 は子どもを緊急避難的に虐待親から引き離し子どもの身柄を保護し(いわゆる「一時保護」。児童福祉法第33条)、親子調整ができるか試みるなどのケースワーク的調査をする。一時保護では足らず継続して親子分離を図らなければならない場合には、保護者からの同意を得て施設入所等を行うが、かかる場合に保護者が同意しない場合もあり得る。そのような場合には、裁判所の承認の審判を得て施設入所等の措置を行う(児童福祉法28条1項1号)。
  一時保護は緊急に虐待親から子どもの身柄を確保するものであり、一時保護の現場では混乱することも往々にしてある。かかる場合に弁護士が立ち会い、法的説明を行うことにより、落ち着くこともある。そこで、児童相談所長の代理人として弁護士が一時保護の現場に立ち会うこともある。
  愛知県では 2000 年 4 月から2名の虐待対応弁護士(これらもキャプナ弁護団 に所属していた)を設置し、児童相談所における虐待事件の相談等を行うシステムとなり、一時保護措置の立ち会いもかかる虐待対応弁護士により行われることが多くなっていた。そして、 2003 年 4 月からは、その制度を改められて、現在、キャプナ弁護団との委託契約が結ばれて、その活動が弁護団全体としての活動となっている。また、名古屋市においても 2004 年 4 月から愛知県と同様になった。
  児童福祉法28条に基づく施設入所の承認申立については、まさに弁護士が子どもの虐待事件に役立つことのできる場である。児童相談所の担当者もどれだけの資料をどのように家庭裁判所に提出し、主張すればいいか自信がない場合が多いという。
  実際、現在、愛知県内で行われる児童福祉法28条に基づく施設入所の承認審判申立では、キャプナ弁護団所属弁護士が児童相談所長の代理人となっている。
  その他、親権喪失申立等法的手段をとらなければならない場合に児童相談所長の代理人となることもある。

  次に A 被虐待児の代理人として活動することが挙げられる。具体的には、離縁、刑事告訴、損害賠償請求、少年事件の付添人などである。
  性的虐待の場合などには、刑事告訴や損害賠償請求を行うことが多い。性的虐待の場合、被虐待児を保護すると当然のことながらその家庭は崩壊する。被虐待児は、その受けた想像を絶する心的外傷とともに、家庭が崩壊した原因は自分のせいだ、自 分さえ黙っていればそんなことにはならなかったと自責の念に苛まれる。このような被虐待児にとって、公の場において悪いのは虐待者であり、被虐待児では決してない、と宣言してもらうことは、傷ついてもなお自分を傷つけ続ける被虐待児の回復の第一歩のきっかけになりうることがある(それにより、心的外傷が必ず癒されると言っているわけではない。逆に捜査側の心ない事情聴取などによりセカンドレイプに近いことが行われ、心的外傷をより深める場合もあり得る。かかる場合には、弁 護士あるいは児童相談所職員の立ち会いを求めるとともに、心的外傷を負った被虐待児の立場に立って事情聴取を行って欲しい旨申し入れることもある)。
  また、幼い頃に虐待を受け続けてきた者は、自分を傷つけ、自分は社会から必要とされていない人間と感じ、非行を重ねることも多い。かかる場合に少年事件の付添人として非行の背景の虐待を理解し、心の傷の回復に向けて行動する必要がある。
  いずれにしても、虐待の程度如何にかかわらず、被虐待児は非常に精神的に不安定になっており、また大人に対する不信感を有している。かかる点に留意しながらカウンセリングマインドを持って接する必要がある(我々は精神科医でもなければカウンセラーでもないので、治療的なことに踏み込む必要はないし、踏み込むべきではない。しかし、被虐待児の立場に立ち、それに共感しながら接していくことは弁護士にも求められている姿勢と思われる)。

  更に B 被虐待児の親の代理人として活動することもある。
  その中でも、虐待をした親ではない一方の親(例えば、父親が子どもに虐待している場合の母親)の代理人となり、離婚のための法的手段をとることが多い。このような場合は、基本的に被虐待児の代理人として活動する場合と同様であるが、母親自身が父親から暴力を受けている場合もあり、ドメスティックバイオレンスについての知識も必要である。
また、親が子どもを虐待してしまう背景に、厳しい借金の取り立てによるストレス等がある場合には、自己破産や任意整理によりその背景を取り除くため、代理人になることもある。実際に、毎日の取立て訪問に著しくストレスを溜めた母親が、追い込まれて子どもに手を挙げていたため自己破産手続を行い、免責を得て、現在は平穏に生活している家族もいる。
  さらにキャプナ弁護団所属弁護士は、虐待により子どもを死亡させてしまった親の刑事弁護をすることもある。虐待死させた親の弁護をすることは、子どもを守るという弁護団の趣旨に反するのではないかとの見方もあるが、弁護団では基本的に矛盾はないと考えられている。
  弁護団の目的は少しでも子どもを虐待から守りたいということであるが、親が虐待という行為に至る過程には、親自身の生育歴の問題点、その親に関わる周囲の人間や関係機関等の社会的影響により、自分で虐待を止めることができないという場合も多い。子どもの虐待をなくすためにも、虐待親を責めても問題は解決しない(ただし、特に性的虐待の場合などは弁護団の中で意見が分かれることは付記しておく)。虐待 防止のためには虐待親の生育歴や周囲の人間や関係機関との関係のあり方や虐待のメカニズムを明らかにし、それを教訓として有効な防止策を考えることが必要であり、 そのような事情を裁判所や社会に伝える必要もある。さらに亡くなってしまった子ども以外に、残された子どもが同じ不幸に巻き込まれないよう関係機関と連携を組みな がら、親自身を治療等につなぎ、家族の再統合を図る必要がある場合もある。

 

4) キャプナ弁護団の特徴

 

弁護団を組織したことについては、いくつかのメリットが挙げられる。
  まず、虐待ケースが入った場合に迅速に対応できることである。事務局に虐待 ケースの情報が入り、危機介入として弁護士がかかわらなければならないと考えられるとき、事務局から直ちに所属弁護士に応援依頼のメールが弁護団のメーリングリストを通じて流される。皆忙しい通常 業務の合間を縫って虐待ケースにかかわっているので、そのメールが流れてきたときに多少なりとも手の空いている弁護士が自主的に事務局に参加の意思表示をする。対応する弁護士を探す苦労はかなり軽減される。虐待の危機介入は、情報が入ればすぐに対応しなければならないことも多く、このメリットは大きい。
  また、ひとつのケースに複数の弁護士が関わり、一人で抱え込まないシステムを とっている。子どもの虐待は、単に法的観点だけでなくカウンセリングマインドが必要とされる場面も多く、また個々のケースで対応が異なり、対応によっては事態を悪 化させる可能性も高く、経済的にも報われないものが殆どである。このようなケースを一人で抱えると、いわゆる「重い」事件に押しつぶされることになりかねない。複 数の弁護士が分担することにより、経済的な面はより大変にはなるが、精神的には負担は分散され、息の長い活動が期待できる。経済的な面では基本的には実費分だけで も各弁護士に負担させないよう努力している。各事件で得た弁護士費用等を少しずつ弁護団基金としてストックし、全く弁護士費用が支払われない場合には、その基金から実費分だけでも支援するシステムを取っている。
  さらに、キャプナ弁護団では月1度の割合で弁護団会議を開催しており、常時、 20 〜 30 名余の団員が参加している。所属弁護士 が比較的時間を取れる昼時に昼食を取りながら、個別ケースの経過報告・問題点、研修等を行っている。これにより、個別弁護団ではない所属弁護士も現在動いている 個々のケースの情報を共有するとともに担当弁護士の悩みや方向性について弁護団全体で議論することができる。また、実際のケース報告を受けることが、まだ経験の浅い弁護士の研鑽にもなっている。もちろん、この会議の個別ケースの資料や議論の内容については、秘密が厳格に守られる。通常の弁護団会議とは別に、児童相談所職員や精神科医等を呼び研修等も行っている。
  キャプナ弁護団が連携しているNPO法人・CAPNAには弁護士や一般市民 のみならず、小児科や精神科の医師、カウンセラー、養護施設の職員など子どもの虐待にかかわる専門家が所属し、つながりを有している。かかるつながりを活用しなが ら、単純に法的措置をとるだけではなく、被虐待児の心的外傷の回復のために他機関につなげる体制ができつつある。最近、続発している子どもの虐待死事件は、もちろん親の問題や責任もあるが、関係機関が自らの仕事の領域を限定し、他機関との連携、つながりを持とうとしなかったために、悲惨な結果を防ぐことができなかったという面もある。キャプナ弁護団はNPO法人・CAPNAと連携をとりながら、その隙間を少しでも埋めるひとつの試みであるといえる。

 

5) キャプナ弁護団の一般的行動手順

 

ここでは、キャプナ弁護団が虐待ケースの情報をどのように入手し、どのように行動するかについて述べる。

子どもの虐待防止ネットワーク・あいち事務局
    〒 460-0002 名古屋市中区丸の内 1-4-4-404
TEL 052-232-2880 FAX 052-232-2882  メール  capna@cronos.ocn.ne.jp

(1) 情報の入手
  危機介入ケースの情報が弁護団へ入ってくるルートは色々存在する。最近では、児童相談所から直接情報が入ってくる場合もとても多くなってきている。また、CAPNAとの関係では、電話相談員から、そのホットラインに入る情報・相談の中から法的介入が必要 と思われるケースがキャプナ弁護団に回される。
  さらに、児童養護施設や保育園、医師等からキャプナ弁護団所属弁護士や事務局に直接情報が寄せられることも多い。
  情報が入ると、直ちに危機介入に対応する場合を除き、原則として弁護団事務局次長に情報が回される。情報を入手した弁護団事務局次長は情報を整理し、ある程度ケース内容をデフォルメした上で各所属弁護士に対し、メール(かつてはFAXが中心)に流す。ケースをある程度デフォルメするのは、所属団員の所属する法律事務所に虐待親などの相手方が既に相談している場合があり得るので、秘密を守る必要もあるからである。

(2) 児童相談所との連絡、ネットワークセッション
  子どもの虐待ケースにおいて中心的役割を果たすのは児童相談所である。必要があれば、NPO法人・CAPNAや弁護団事務局から管轄児童相談所に対し虐待の通告を行うとともに、具体的な方針について協議する。また、虐待ケースにおいて は、関係機関それぞれ単独では適切に処理することはできない。それは中心的役割を果たす児童相談所においても同様である。関係諸機関の密接な連携が子どもの虐待へ の対応においては極めて重要とされている。そのために、各関係諸機関を招集し、それぞれが持っている情報を共有し、子どもを守るためにそれぞれの機関がどのような 動きをするべきか、役割分担を検討する場が必要となる。それがいわゆるネットワークセッション(ケース検討会、ケースカンファレンスともいう。)である。必要があれば、児童相談所に対しネットワークセッションの必要性を説明して開催を促し、また法律専門家としてネットワークセッションに参加する。

(3) 緊急を要する場合のメンバー確保
  危機介入の場合弁護団の動き方としては、 @ 即時に行動しなければならない段 階(一時保護の立会、母子の緊急保護等)と A 法的手段をとる段階(児童福祉法第28条申立、親権喪失申立等)がある。                     
  キャプナ弁護団の場合、できるだけ所属弁護士の自主性に任せることが活動を継続 して行っていく上で必要だと考えているので、原則的には各所属弁護士にFAXし、参加者を募るという形態を取っている。しかし、各所属弁護士のFAXに対する回答 を待っていては対応が遅れるという場合には、事務局から直接各所属弁護士の事務所或いは携帯電話に連絡を取り、とりあえずの対応弁護士を探すことにしている。

(4) ケース担当弁護団の結成
  即時に対応する弁護士というのはある程度特定の弁護士に限定されてくるのも 現実である。その弁護士が最後まで全てそのケースに対応しなければならないとすると、結局特定の弁護士に事件が集中し、負担が増大することになってしまう。
  そこで、緊急の場合のとりあえずの対応弁護士とは別にその状況を乗り越えた あと(前述した A 法的手段をとる段階)の対応弁護士をできるだけ分担にするようにしている。実際にはなかなか難しいが、このような形態にすることが、とりあえず緊 急事態に対応することができる弁護士(その後は動きにくいがとりあえずその時間だけは空いている等々)や緊急には動けないが途中から参加したいと思っている弁護士 の数を増加させることもできるし、特定の弁護士にケースが集中することを避けることができるのである。
  ケース担当弁護団は、通常4、5人の弁護士により構成される(かつては殆ど 全員で構成したこともあるし、現在でもかかる必要性がある場合には行う場合もある)。ケース担当弁護団が結成されれば、基本的にその所属弁護士がそれぞれ他の弁 護士と連携を取り合って処理することになる。その情報は、逐次弁護団事務局にも報告され、月1回の弁護団会議でも概要が報告される。

 

6) 弁護団活動の意味

 

キャプナ弁護団は、全国でも初めて子どもの虐待ケースに対応するネットワークを持った弁護士集団である。児童相談所や裁判所においても、弁護団の存在が認知されてきている。子どもの虐待ケースは経済的に決してペイできる事件ではないが、将来を担う子どもたちの人権を守るために弁護士がかかわるべき問題のひとつである。一部の弁護士に過重な負担をかけずに、息長く広汎に活動していくためには、このような「弁護団」としての活動は重要であろうと思われる。
  もっとも、地方の弁護会によっては量的に人的限界もあると思われる。キャプナ弁護団 は、近隣地域とのネットワークを広げることを期待しており、情報提供及び連携の努力に努めている。もっともっと子どもの虐待防止のためのネットワークが少しでも広がることができれば幸いである。

 

子どもの虐待防止ネットワーク・あいち事務局
    〒 460-0002 名古屋市中区丸の内 1-4-4-404
TEL 052-232-2880 FAX 052-232-2882  メール  capna@cronos.ocn.ne.jp